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水戸地方裁判所下妻支部 昭和29年(ワ)136号 判決 1956年10月31日

原告 生井俊子

被告 坂従利男

主文

被告は原告に対して金二万二千二百円及びこれに対する昭和二十九年五月十三日から支払迄年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は金一万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事  実<省略>

理由

被告に原告主張のような過失があるか否かについて判断する。

成立に争がない甲第一号証、証人稲葉順四郎、坂従陸五郎、生井よし子、生井弘子、和田敏子、諏訪げんの各証言、被告本人の供述の一部、検証の結果並に前記争なき事実を綜合して考えると次の事実を認定することができる。「被告は昭和二十八年五月十八日午後三時三十分頃八千代村西豊田中学校東側を通ずる県道上(幅十五尺位)を同校南の方から同校に向つて(北の方え)土を積んだ馬車を駆して(被告は馬車上に乗つて)進行中、同じ方向に進行中の和田三浦のひく牛車に追付いたので早足にて牛車右側(被告の方から見て)を通つてこれを追越すべく道路右側に寄つたところ右三浦がたづなをとる牛の右側に雑談を交しながら被告の馬車が来るのも気付かざる様子で女生徒五、六名が歩行中であるのを認めたが被告は同人等は無事通過するものと慢然考えて牛車後部に馬車を並行させて追越すべく早めに進行せしめたため突如被告の馬車と接近したことを知つた女生徒等は通路に窮して一名は被告の引く馬の前を通つて道路右側の田の中に難を避けたが原告を含む他の女生徒は縦に一列になつて間隔約二尺五寸位の両車の間を通過したが列の最後にならんだ原告は馬とすれちがうとき馬に恐怖して身を牛車の方に身を寄せたためその瞬間牛車右車に右足をひかれ原告の主張傷害を蒙つた。」

右認定に反する証拠は措信しない。

右に認定した事実によれば被告は土を積んだ馬車を駆して(馬車の上に乗つて)幅三間半の県道上左側を進行しておつたところ馬車前方を同じ方向に道路左側を進行しつつあつた牛車に追付いたので右側(被告の方から見て以下同じ)を通つて追越すべく道路右側に出てたところ、たまたま学校から帰宅すべく雑談を交しながら歩行中の原告を含む女生徒五、六名が被告の馬車が進行しているのも気付さる様子で牛車尖端右側を通行中であることを認めたのであるから若し牛車の右側に出でてこれと並行して進行するような行動で出でれば同人等は道路がせまいため通路に窮し道路右側に避け得ても馬車に接触する虞がありまた避け得られずして両車の中間に狭まれた場合は牛車又は馬車の車にひかれる危険性が十分あるのであるから女生徒の通過するのを待ち通行人に対する安全を期して牛車の右側を通行する等の行動に出ずべきであるにかかわらず、かかる注意を忘却して前記行動に出で原告をして原告主張の傷害を蒙らしめたのであるから被告は原告に対してこれによつて生じた損害を賠償すべき義務があるものとす。これに対する賠償額を考えるに、原告生徒等は道路を通行するに当つては前方を注視して前方から来る通行物に対しては注意を用い通行物とすれちがうような場合には自己の安全を期するため接触の危険なきよう予め避けると共に先方の通行物に対しても安全に通過できるような態度を持すべきであるにかかわらずこれらの注意を怠り牛車の左側(原告の方から見て)を通過するに当り前方の注視を怠つたため牛車の後方から接続して早足にて迫つて来る右馬車が牛車左側に出て並行して進行せんとするのも気付かずして依然牛車の左側を通行して前記の如く自己において安全に待避する機会を逸し他面被告をして前記事故を発生せしめた不注意あることを斟酌する必要がある。

しかして原告が昭和十五年八月二十三日生の農業を営む生井長次、生井まつの四女であること争なく、これらの事実と(なお原告は法定代理人生井長次の供述によれば金一万二千円の見舞金を受取つている)原被告の過失の程度等を綜合して考えれば原告が被告に対して請求し得る慰藉料は金一万五千円を以て相当とする。

しかして成立に争がない甲第二号証の一乃至六、原告法定代理人生井長次の供述によれば右受傷によつて治療費として金七千三百二十円を支出したことを認め得べくこれは原告において被告の加害による損害として請求することができる。

よつて被告は原告に対して右合計二万二千二百円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和二十九年五月十三日から支払迄年五分の割合による金員を文払ふべきものとす。

原告その余の請求は理由がないから棄却する。

(裁判官 亀下喜太郎)

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